雪を求めて旅をする、ショートフィルム『FÄLES』が描く光陰。

 

2020年、パンデミックが世界を襲った年。カイサとウイリアムは一台のバンにスキー板と必要最低限の荷物を詰め込み、3ヶ月にわたる旅へ出た。しかし、冬が訪れても雨は降り止まず、コンディションの悪い雪ばかり。理想の雪を求め、ふたりが辿り着いたのは北極圏だった。 

 FÄLES』と名付けられた一本のショートフィルム。ここにはカイサとウイリアムがバンライフを送りながらまだ見ぬ楽園を求めて旅をする様子が描かれている。 

 ともすれば、いわゆるロードトリップを収めた作品と捉えられるかもしれないが、パンデミックとグローバルウォーミングというふたつの問題を背景に持っている。Covid-19の拡大により、世界中の人びともちろんアウトドアを楽しむ私たちも活動を制限せざるを得なかった。そんななか、滑ることが生きがいであるスキーフリークが見つけた答えがバンライフだったのだ。 

 

そして、毎年のように雪が減りつづける冬。気候変動の影響が叫ばれて久しいが、自然と直結したアクティビティであるウインタースポーツでも、その一端は確実に現れている。冬を迎えても下がらない気温は雪ではなく雨を降らせる。降ったとしてもパウダーとは程遠い湿った雪が一面を覆うばかりだ。そんなふたつの不可抗力を前に、カイサとウイリアムのふたりはバンを北へ走らせた。 

 数ヶ月にわたる忍耐の日々。その先でようやく辿り着いたのは北極圏に位置するスウェーデン。手付かずの広大な山々は真っ白な雪に覆われ、トレースはひとつとして見つけることができない。そんな楽園に身を投じ、日が暮れるまでスキーにいそしむ。スウェーデンの自然のなかで、ふたりは暗闇のなかの一筋の光を見つけたのだ。 

 フィルムを通して印象的なのは、風景の美しさだ。夕暮れの染まる山々、青空と雪のコントラスト、テントから覗く白い丘。そのすべてがスウェーデンの自然の成せる業なのかもしれないが、美しい瞬間に立ち会うことはそう容易ではない。きっと、『FÄLES』を観た者の多くが、彼らの過ごし方を羨ましく思うはずだ。毎年訪れる冬。その短い日々がもたらす喜びを余すことなく享受したい。それはスキーを愛する者、自然を愛する者にとって当然の感情だろう 

 FÄLES」とはスウェーデン北部の古い方言で「旅」という意味だという。スウェーデンは彼らの出身地であり、旅の終着地点でもあり、このショートフィルムを表現する言葉としてふさわしい。移動そのものが制限され、旅という言葉を過去のもののように感じることもあるだろう。しかし、バンで過ごす彼らの表情を見ていると、旅の素晴らしさがふっと蘇ってくる。 

 必ずしも明るいとは言い切れない今だからこそ生まれた『FÄLES』。その作り手であるカイサとウイリアムにオンラインインタビューを行い、映像では知ることのできないエピソード、ふたりの考えを聞いた。 

 

—『FÄLES』のストーリーは、バンライフでのロードトリップが軸になっていますね。なぜふたりはバンでの移動、生活を選んだのでしょうか。 

 バンで暮らすということは、それ自体が自由な行為なんです。旅に出るとき、私たちは目的地を決めず、雪が降る場所を求めて車を走らせようと考えていました。朝起きたら雪を求めて移動する。そして存分に滑ったら休む。その日々は純粋な喜びに溢れていました。何より、私たちはスキーが好きなんです。自由気ままに雪を追い求める。つまり、バンライフは私たちの価値観を伝えるための最適な手段でもありました。 

 

パンデミックが奪ったもの、与えたものとは? 

 実は、私たちがバンライフをはじめたころは、まだcovid-19の感染はそれほど拡大していませんでした。旅をつづけるうちに、次第にパンデミックの影が近づいてきたのです。ヨーロッパの国のいくつかはロックダウンがはじまり、一時的に家に戻ったこともありました。しかし私たちはバンでの生活に戻りました。生活に制限がかかる非常事態において、自然に身を置く日々を送ることができたのは幸運だったのかもしれません。 

 

—『FÄLES』の旅でもっとも印象的だったエピソードを教えてください。 

 「足を知る」ということでしょうか。旅をはじめたのはちょうど冬のはじまりで、スキーも生活も、新しいモノを欲しいと感じる時期でした。しかし旅をつづけるうちに、本当に必要なモノとは?を考え、ほとんどを手放してしまいました。たくさんのモノに囲まれる生活が理想的ではないことに気づいたんです。モノを少なくすることで、より心の平穏を感じるようになりました。 

 

ふたりはそれぞれの仕事をしながら、スキーヤーとしても活動していますね。スキーの魅力とは何なのでしょうか。 

 スキーもアウトドアも、自由が好きな私たちにはぴったりなんです。ハイスピードで滑る時間。その時間に感じる自由。そして、人の気配のない自然に佇んでいるときに気づく隔絶感。まるで世の中から放置されたような気分になります。それこそが自然に身を置くこのと素晴らしさなのだと感じています。しかし自然はときに過酷です。どんなときも安心して楽しめるよう、スポーツ医学や雪崩知識などの勉強もしています。 

 

温暖化が体感できるほどに迫ってきている今、これからの自然を守るために取り組んでいきたいことは? 

 グローバル企業の影響は大きく、私たちの力は小さいのは事実。しかし、低消費なライフスタイルを追求したり、移動手段をハイブリッドカーにしたり、環境変動を危惧するブランドPeakPerformanceのようなと一緒にサステナビリティをより実現するための活動をしたいと思っています。 

 

 

 

*プロフィール 

William & Kajsa Larsson 

 

出身はスウェーデン、オーレ。いずれも27歳。ウイリアムはアートディレクター&スキーヤー、カイサはプロジェクトマネージャー&スキーヤーとして活動している。 

 

Kajsa 

https://www.instagram.com/kajsal/ 

 

William 

https://www.instagram.com/william_larsson/ 

 

text/ Kousuke Kobayashi